40分 の 呪い
その人は、絵に書いたようなワーカホリックで
長くつきあっている女がいて、だけどもうもうそれはただの惰性で、その関係にしがみついているのは女の方だけ
今日こそは絶対に会いに来てよ!と
度重なる悲鳴にも似た訴えを無視し続けたのは、心身の疲労と相手への倦怠と食傷に加えて、
女一人 大人しく黙らせておけない自分への苛立ち
何度目かの咆哮にも似た要求に、やっと部屋を訪ねた
焦がれた相手が、今は目の前にいると言うだけで、
会わなかった時間が キレイに拭い去られたかのように機嫌のいい女は、
その人と一緒に食事をし、風呂に入るようにすすめる
ため息をついて 狭いバスルームでシャワーを浴びて出てくると、
ベッドで待ってて と
入れ替わりバスルームに消える女
鼻唄が聞こえて約一時間
やっと出てきたかと思えば 髪を乾かす音
疲れきったその人は眠ってしまう
一度眠れば、朝までか いつまでか、とにかく多少の事では絶対に起きないのだから、髪を乾かして出てきた女の怒りと落胆は何にたとえればわかりやすいだろうか
怒った女が その夜どんな気持ちだったか、想像に難くない
そして早朝、女が出かける時もまだ眠りこけていて 昼近くに目が覚めた時に、一番に思ったのは、そばにいない女の事ではなく、眠っていて飛ばした仕事の事だったとか
過去にたった一度だけ 女に手を上げなければならなかった経験として
女から どうしても行ってみたいと懇願された有名な観光地に 予定をどうにかやりくりして二人で車に乗って向かう途中、
些細な事で口げんかになり、日頃の鬱憤ばらしも込めてか、女にいきなり左頬を思い切りグーで殴られ、
ハンドルを取られて 対向車線に飛び出しそうになるのを必死でこらえ
死にたいのか?? と 女を裏拳で殴り返した事とか
出会った時 女に惹かれた理由も、
じわじわと冷めていった理由も
自己嫌悪ベースで語られる話を聞きながら、
誰かにコントロールされて唯々諾々と動く事を 良しとするような人じゃない事を私は知っている
風呂入るのもいい加減長いのに 出てきて 髪乾かすのに40分ぐらいかかるってどうよ??
眠くなくても、寝るよな?
と、うんざりした声は教訓だ
・・・・寝るわな、そりゃ
眠い目をこじあけても待ちたい相手なら、
風呂場に乱入するか、いやそれこそ 訪ねてドアが開いたとたんにに押し倒してるやろ、
と
口には出さずに心で思う
待ってて、と言って待っててくれるなら、
待てないと 言って抱きしめられるなら
きっと愛されている証拠だと思う
たとえそれが、体であろうと、心であろうと その瞬間に欲しいと思われなくて何のための自分か
誨盗誨淫・・・・悪事や 淫らな事に誘い込む事
骨抜きにしてよ、と 思うのは、骨抜きにする人よりも 業が深い
呪いがかかって、恋人が石になってしまわないように、私はいつだって何だって ものすごく手早い事は 何らかの矜持